院長ブログです
昔、母と二人暮らしだった小学生の時の話。母は毎日昼も夜も一生懸命働いて私を育ててくれていた。そんな母を尊敬する半面、一人の時間が長く、母にゆっくり甘えたい気持ちが満たされない寂しさを抱え、毎日を過ごしていた。
私は雨の日が好きだった。理由は、お気に入りの傘が使えるから。それは、お店で一目惚れをして、唯一母にわがままを言って買ってもらった傘だった。真っ白の地に色とりどりの水玉模様。その傘をさすだけで憂鬱な雨の日がウキウキの一日に変わった。
ある雨上がりの午後、その傘を手に、友達との会話に夢中になりながら下校していた。そしてある時ふと気がついた。
「傘がない!」
(いつから持っていないんだろう?たしかにさっきまで手に持っていたのに…!)
焦る気持ちを抑えつつ今来た道を戻って探したけれど、どうしても見つからない。私は傘を失くした悲しさと、母に叱られるという思いで、泣きながら家に帰った。
夜、帰宅した母に傘を失くしたこと、一生懸命探しても見つからなかったことを伝えると、普段は厳しい母が叱るどころか私の頭をなで「そういうこともあるわよ。明日、交番に行って届いていないか聞いてみましょう」と言った。
翌日、母と交番に行くと、なんとあの傘が届けられていた。どうやら届けてくれたのは、小さな女の子とそのお母さん。もう戻ってこないと思っていた傘が見つかり喜ぶ私に「一生懸命探す気持ちがあったからこそ、優しい人が拾ってくれたのよ。今度からはちゃんと気をつけてね」と母は優しく微笑んだ。
帰り道、また雨が降り出した。パン!と今見つかったばかりの傘を開き、母と二人、仲良く相合傘をして帰った。その時見上げた母の横顔と水玉模様は、大人になっても忘れない優しい思い出の風景だ。