院長ブログです
ある日、真剣な表情で息子が言った。
「学校に行く途中でいつも会うおばあさんに、何度挨拶しても返してもらえないんだよね」
私は深く考えず「声が小さいんじゃない?」と答える。
すると息子は顔を赤くして「そんなことないよ!」と言い残し、部屋に戻ってしまった。
次の日、学校から帰ってきた息子がまた言った。
「今日は大きい声で挨拶したけど、やっぱり返してもらえなかった」
悩む息子に何かアドバイスできないか、と今度は少し考えてこう聞いてみる。
「庭の草取りとかしていなかった?下を向いていると案外聞こえないものだよ」
息子は「そういうんじゃないんだよなぁ」と、しばらく首をかしげていたが、気づけばどこかへ遊びにいってしまったようだ。
翌朝、家を出る息子が丸めた画用紙を抱えていたので
「今日って図工あったっけ?」
と聞くも、生返事だけしてそそくさと学校へ向かった。
そして、その日の午後、息子は元気に帰宅してきた。
「ただいまー!今日、これを見せたらおばあさんにお返事もらえたよ!」
息子はくしゃっと丸まった画用紙を広げる。
そこには、マジックで大きく「おはようございます」と書かれていた。
「もしかして耳が遠いのかと思って。これを見せたら、挨拶してくれたよ」
息子は嬉しそうに続ける。
「さっき下校のときも会ってね、朝は補聴器してないから全然聞こえないんだって。見た目じゃわからないよね」
朝に抱えていた画用紙が、まさかこのためだったとは。私は息子の行動に驚いた。
挨拶を返されず悲しい思いをした後に、相手の状態を思いやることは大人でもなかなかできないかもしれない。
「一緒に下校してた友達も、おばあさんに返事してほしいなって思ってたんだって。誤解が解けてよかったよね」
おやつを食べながら楽しそうに話す姿を見て、なかなか頼もしい息子だなと感心した。