院長ブログです
50をとうに過ぎた私だけど、足腰の強さには自信がある。それというのも、階段の上り下りを毎日のようにしているからだ。
私の家はマンションの5階にある。けれどエレベーターは使わない。
帰宅時に多少の荷物があっても、仕事で疲れていても、共用階段を使って家に帰る。それは健康維持のためであって、加えて言えば強く生きていくぞ、という意志の表れだ。
いわゆるシングルマザーだった私は、少し気を張っていたのだと思う。
一人娘がめでたく結婚した今は気楽なもので、ゆるやかに毎日を過ごしている。
少しの寂しさはあるけれどようやく娘を送り出せたという安堵感の方が強いし、友人も多いので日々充実している。いつものように階段を上り下りしながら今日までの人生を振り返ると、満足感が込み上げてくるくらいだ。
これからはエレベーターを使おうか、と階段の踊り場でふとそう思った。
守るべき娘は結婚して独立したことだし、後はのんびり生きてもいいじゃないか…と。なのにそう思うと、もう一生懸命階段を上ったり下ったりしなくていいのかとちょっとした寂しさを感じた。その時ちょうど娘から着信があった。
「お母さん、私、子どもができたみたい」
通話を終えた私は、階段のステップに足をかけた。まだまだこれからか、そんな風に思いながら力強く階段を上る。
嬉しいことがあると足取り軽く、嫌なことがあるとやけにしんどく感じたこの階段。踊り場で折り返しながらくるくるくるくる。
人生みたいに上ったり下ったりを繰り返す。どうやらお役御免はもう少し先みたいだ。やっぱり、エレベーターを使うのはまだやめておこう。
これからも階段を上って下って、そうやって過ごしていこう。
いつになく軽い足取りで階段を上りながら、そんな風に私は思った。