院長ブログです
「翔太、ご挨拶だよ」
私が声をかけても、息子は固まったまま下を見つめるばかり。
保育園に通い始めてかなり経つが、人見知りの息子はなかなか馴染めずにいた。
ある日、保育園に迎えにいくと、息子が笑顔で駆けてきて一枚の画用紙を見せてくれた。
紙には二人分の似顔絵が描かれており、先生が「敬老の日に、おじいちゃんおばあちゃんにお渡しする似顔絵を描いてもらったんです」と教えてくれた。
「翔太、上手に描けたね!おじいちゃんとおばあちゃんも喜ぶぞー!」
私がそう言うと、翔太は照れくさそうにニコニコ笑う。
どうやら翔太の絵はお友達にも好評だったようで、いつも園の話はしないのに、家に帰ってからもずっとその日のことを話してくれた。
そうしているうちに、またお絵かきがしたくなったという息子に道具を渡して「ごあいさつカード作ろうよ」と提案してみる。
きょとんとしている息子に「この紙に、なんでも好きな絵を描いて、みんなに配るんだよ」と説明すると、翔太は瞳を輝かせてカードを描きだした。
翌朝、保育園に着き、相変わらず緊張する息子のカバンをポンポンと叩く。
翔太は意を決したように一歩踏み出し、カバンからカードを取り出すとみんなに配り始めた。
受け取ったお友達は「これなに!」「おはなだ!」「ぼくのはペンギン!」と口々に興味を示してくれた。
息子もおずおずと「ぼくがかいたんだよ」とおしゃべりしているのを見て、私も少しほっとする。
しばらくして、息子はカードがなくても挨拶ができるようになった。
これで少しは人見知りも直るといいな、と思っていたある日、息子から一枚のカードをもらった。
そこには『おかあさん ありがとう』という文字と、私の似顔絵が描かれていた。
こうして宝物が増えるなら、恥ずかしがり屋の翔太でもいいのかもしれない。