院長Blog

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こころ温まるお話「そんな仕事」

「5丁目交差点のコンビニでいいですか?」
乗車するなり尋ねられ、私は雨に濡れた体を拭きながら、はいとだけ応じた。
経営している居酒屋から自宅近くのコンビニまで毎回同じ時間、同じルートで利用する私はタクシーの馴染み客だ。
今のお店は亡き父から引き継いだ。居酒屋なんて、と最初は思ったけれど、思い出のお店をつぶしたくはなかった。
必要な資格を取って、経営の勉強をして…あれからもうすぐ3年が経つ。

閉店後に片付けを終えて、帰路につくのは午前1時過ぎ。タクシー独特の匂いを感じながら疲労感に身を任せるこの時間が、私はわりと好きだ。
ただあんまり疲れていると、余計な考え事をしてしまう。
私は今の仕事を気に入っているけれど、同年代の友人にはよく、ずっとそんな仕事を続けるの?結婚はしないの?なんて言われる。
30代も半ばに差しかかる年齢だから無理もないが、正直余計なお世話だ。

「だいぶお疲れのようですね」
とその日は珍しく運転手が声をかけてきた。私の表情が暗かったのかもしれない。
疲れていると友人の言葉も重く心にのしかかる。このままじゃダメなのかな、と考えてしまう。
だけど私は、今の仕事が好きだ。今は結婚より、思い出のお店を続けていたい。顔を上げるとミラーに穏やかな目元が映っていた。
見守るような眼差しに、父の面影が重なり、気がつけば私は愚痴をこぼしていた。
「はい、疲れてます。友人にはそんな仕事もう辞めたら、なんて言われます」

すると父と同年代であろう運転手はわっはっはと笑い、いや失礼と謝ってから言葉を続けた。
「私も似たようなこと言われるものですから。“そんな仕事”、大変でしょって」
私は好きなんですけどねえ、この仕事、と笑いながら目的地であるコンビニ駐車場にタクシーを入れた。
支払いを済ませ降車する私に、運転手はにこやかに言った。

「周りの目なんて重要ではないでしょう。そんなに悩むほど一生懸命なんですから」
いつの間にか雲の裂け目から満月が顔を出し、まばゆい光を放っていた。

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