院長ブログです
幼稚園バスの停車場所までの道のりに、よく吠えるわんちゃんがいる。
息子は怖がりで前を歩けないから、だっこして通るのがお約束だ。
しかし、お腹の赤ちゃんが大きくなってきたこともあり、それも少し辛く感じていたある日、私は妙案を思いついて息子に提案してみた。
「わんちゃんの前、お耳あわわして歩いてみようか」
私は息子の耳を何度か軽く塞ぎながら、「あわわ」と言ってみせた。
「面白い音がするでしょ。わんちゃんの声はどんな風に聞こえるか、やってみない?」
手を放して息子の顔を覗き込むと、私はぎくっとした。息子は顔をくしゃくしゃにしていたのだ。
私は小細工したことを後悔した。
「おなかにあかちゃんがいるから?」
そう言って泣き出した息子を抱きしめながら、
「うん、赤ちゃんが大きくなってきてね、だっこして歩くのちょっと大変なんだ」
と正直に話したが、息子は泣くばかり。
そのとき、脇腹にぐーっと力強い胎動が。
私はふと思い立ち、息子の手を取りおなかにあててみた。
息子は胎動に気がついたのか「わっ」と手を引っ込め、泣き止んだ。
そして、涙でびっしょりの顔を上げた。
「おなかの音も聞いてみる?」 と聞くと、息子は黙っておなかに耳を当て、じっとしていたが、しばらくして
「あかちゃん、ないてないね。ごーごーってきこえる」とつぶやく。
「そうだね、今は眠ってるの。でも赤ちゃんは生まれてきたらたくさん泣いちゃうから、その時はおにいちゃんとして、お母さんと一緒に『大丈夫だよ』って言ってあげてね」
私がそう答えると、息子は何も言わずに頷いて、おなかを一度さすった。
翌日、幼稚園バスに向かう途中。わんちゃんの近くに差し掛かかると、息子は突然手さげ袋を押し付けてきた。
なにかと思っていると、「あわわ〜!」と言いながら両耳をてのひらでパタパタして、いつもだっこで通る数メートルを一人で歩ききったのだ。
私は急いで息子に追いつくと、思わず聞いてしまった。
「怖くなかったの?」
「ぼくにーちゃんだから、これくらい『だいじょーぶ』だよ」
にっと笑った息子と手をつなぐと、しっとり汗ばんでいた。