院長ブログです
馴染みの喫茶店でお茶していると、ママ友のタナベさんが壁に掛けられた板書を指さした。
「あれ!行ってみない?」
指の先には『コーヒー教室・受講者募集中』という文字。
自家焙煎が自慢のこの喫茶店で、マスターがコーヒーの淹れ方をレクチャーしてくれるというものだった。
好奇心旺盛なタナベさんらしい提案だ。
自分ひとりなら、知らない輪に入るのが不安で考えもしなかったと思うが「タナベさんが一緒なら」と、思い切って申し込むことにした。
講座は全6回。
初回はコーヒー豆の産地や、豆ごとによる味の違いを学ぶ座学で、そのあとに簡単な試飲もさせてもらえた。
タナベさんも、大好きなコーヒーの知識が増えるのを楽しんでいるようだ。
「淹れ方が違うだけで、ぜんぜん味が違うのね!」
タナベさんは他の受講生たちと積極的に情報を交換しながら仲良くなっていった。
引っ込み思案な自分との違いに少し落ち込むこともあるが、この教室に誘ってくれたときのように、はつらつとした性格は見ているだけでも勇気をもらえる。
カッピングという難しい内容まで習った、第4回の修了後。
タナベさんは家庭の事情で、残りの講座に来られなくなってしまった。
「タナベさん、オリジナルブレンド作りを楽しみにしていたのに」
誰かが残念そうに呟く。
そう、彼女は自分で豆をブレンドする最後の講義を、一番楽しみにしていた。
『皆さんが持つイメージが、味や香りに表現されるんです。楽しいですよ』
オリジナルブレンドについて、マスターが初日にそう話したときに、誰よりも目を輝かせていた。
「…みんなで、タナベさんにコーヒーをブレンドして届けませんか!」
普段物静かな私が突然声をあげたことで周囲が驚くなか、マスターは穏やかに「いいですね」と答えてくれた。
「どんなイメージで作りますか?」
そう尋ねるマスターに、私は今の思いを正直に伝える。
後日、受講生のグループメッセージに、タナベさんからこんなメッセージが届いた。
〈 皆がブレンドしてくれたコーヒー、すごくフルーティーで華やかだったよ!何をイメージしたの? 〉