院長Blog

院長ブログです

こころ温まるお話「夕方の街で」

       

手を振って歩く速度を少し上げる。
背中から汗が吹き出てくるが、それが心地いい。

夏の始まりの夕暮れ、日差しはまだまだ強い。定年後の運動不足解消を兼ねて始めたウォーキングも早3ヶ月。「こんにちは」「今日も暑いですね」「ご苦労様」。歩きながら私は顔なじみになった人に声をかける。

最初は勇気が要ったが、次第に笑顔で返事をしてくれる人が多くなった。
飽き性の私が続いているのは、その輪の広がりが嬉しかったからだ。

前方から近づいてくる黒いシルエット。あの子だ。
この暑さの中、いつも黒のスカートスーツ姿で、暗い表情で下を向き歩いている。スーツが浮いていることから見て間違いなく就活生だろう。

「こんにちは!」。意識して元気に声をかける。
彼女は顔を上げて私を見るが、声なく頭を下げ、とぼとぼと歩いていく。
何度か声をかけているが、いつも同じ調子だ。時には顔すら上げずに通り過ぎることもある。その様子から、彼女の就活の結果も見て取れた。

そんなことを繰り返しているうちに彼女を見かけなくなった。
私がうっとうしくて道を変えたのだろうか。
元気づけるつもりで声を掛けていたが逆効果だったかと後悔した。

それから一年の時が経とうとしている。ウォーキングも板についたものだ。
いつものように夕方の街を歩く私に「こんにちは」と声がかかる。

顔を上げると、爽やかなスーツの女の子。
それが彼女だと気づくのにしばらく時間がかかったのは、初めて見せる笑顔のせいだろうか。

そうか……よかった、ほんとによかった。
私は彼女の後ろ姿を見送り、足取りも軽く歩き出した。
彼女の胸の真新しい社章は、私には馴染み深いものだった。

「頑張れよ、後輩」。私は小さくつぶやいた。

 

 

     

年別アーカイブ

ただ今スタッフ募集中です!

クリニック見学会も実施中!詳しくは求人専用ページをご覧ください!

Read More
羽曳野市 歯医者 山岡歯科医院
診療時間
〒583-0872 大阪府羽曳野市はびきの1丁目4-6 コーポはびきやま1F
無料カウンセリング予約 求人情報