院長ブログです
「ゆうすけ!ご飯をテーブルに運んで。あと、テレビは消しておいてね!」
我が家では『ご飯を食べるときにはテレビを消す』という習慣がある。
僕が幼い頃からある暗黙のルール。しかし、高校生の僕には「めんどくさいな」という気持ちが強かった。
ある日、僕はどうしても観たいドラマがあり、ご飯の最中にテレビの電源を点けた。
するとすぐに「ご飯を食べている最中だよ」と、母から注意される。
今日だけ、とお願いしたが母も譲らず結局言い合いになり、その日は喧嘩をしたままご飯を食べ終えた。
母が寝た後にリビングへ戻ると、父がソファに座っていた。
「気分は落ち着いたか?」
目が合った父からそう問われたので、うん、とだけ頷き父の横に座ってみる。
「それにしても、母さんはなんであんなに『テレビを消すこと』にこだわるんだろうね?」
父は「ああ…」とつぶやくと、少し考えたように間を置いて答えてくれた。
「母さんは小さい頃、両親が共働きで寂しい思いをしていたんだよ。その中で、唯一家族が揃うご飯の時間を、なによりも大切に感じたそうだ」
温和な母がめずらしく一歩も引かなかったのは、変なこだわりかと誤解していたが、食卓を囲む時間を大切にしたい、という確かな想いからだったんだ。
翌日、父と出かけて帰ってくると、僕の好物である「肉じゃが」を作る母の姿があった。
喧嘩になってしまったことを申し訳なく感じていたのは、母も一緒だったようだ。
ほら、と父に背中を押されて、僕は抱えていたDVDレコーダーを母に見せる。
「どうしたの、それ?」
目を丸くする母に「父さんにお金を借りて買ったんだ。これからは観たい番組があったら録画する」と伝えると、今度は目を細めて笑ってくれた。
夕飯の後、録画しておいたドラマを家族で観ることに。
ドラマを観ながら楽しそうに話す母と父を見て、『家族で過ごす時間を大切にしたい』という母の気持ちがわかった気がした。