院長ブログです
「おかあさん、僕のおてて、変なのかな?」
私がテレビを見ながら大きな声で笑っていると、笑い声の合間を縫うように、息子の声が聞こえた。
怪我でもしたのかと慌てて見せてもらうが、どこも異常はない。
「なんとも無いみたいだよ?どうしたの?」
「でも、左手で絵を描くのがおもしろい、ってユウキくんが…」
どうやら幼稚園で絵を描いているときに、お友達に指摘されて不安になったようだ。
「アヤトが左手でクレヨンを持ってたって、何も変なことじゃないんだよ」
そう説得はしてみたものの、アヤトはそれ以来、何をするにも右手でするようになった。
夕飯のときも、慣れない右手でハンバーグを食べようと悪戦苦闘している。
「人と違って当然」ということを理解してもらうのは、まだアヤト達の年齢では難しいようだった。
そんなある日。今度は幼稚園から帰ってくるなり、目を輝かせてこう言った。
「今日ね、ユウキくんにすごい、って言われた」
右手でお絵かきに挑戦していると、ユウキくんに「なんで右手で描いてるの?」と聞かれたそうだ。
「だって、左手で描いてるのは変だから」
息子がそう答えると、ユウキくんはびっくりしたように答えたという。
「そんなことないよ!僕、左手で描けないもん。アヤトくんは描けるから、すごいなって思ってたんだ」
その言葉に驚いていると、周りのお友達も「そうだよ」「アヤトくん絵じょーずだもんね」「また見せて」と続いたという。
そのときのことが、よほど嬉しかったのだろう。
それからアヤトは、利き手のことはぴたりと気にしなくなった。
「アヤトは左手でクレヨンを持ったり、絵を描いたりするのが得意だよね。それはアヤトの『個性』だから、これからも大切にしてね」
私がそう付け加えると、アヤトはじっと私の顔を見てこう答えた。
「おかあさんの大きな笑い声も、お家を明るくする『個性』だね!」
一言余計だけど、アヤトなりの褒め言葉だと思っておこう。