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こころ温まるお話「母は床屋さん」

       

ある朝のことだった。

鳴り響くスマホの着信音で目を覚ますと、画面上には母の名前が表示されていた。
恐る恐る電話に出てみると、わざわざうちまで来て髪を切ってくれるというのだ。
あまり気乗りはしなかったが、妊娠してから半年間カットに行っていなかったのでお願いすることにした。

何かにつけて頭ごなしに決めつけるかのような、厳しい小言ばかり言う母が昔から苦手で、私が思春期を迎える頃になると反抗することも多くなった。

今思えば母に歯向かいたいだけだったのかもしれない。
床屋を営んでいる母に「流行のアイドルの髪型にしたい」と言ったら「いつものにしなさい」と激怒されて大喧嘩。
そのまま私が家を飛び出して、よその美容院に行って以来、どこかぎくしゃくした関係が続いていた。

そんな昔のことを思い返して緊張していたせいか、寝不足で当日を迎えることに。
予定よりもだいぶ早くやってきた母を見て、やっぱりやめておけば良かったか…と思っていると、母が口を開いた。

「どんな髪型にしたいの?」

意外な一言に驚きながらも「短くしたい」と伝えると、母は「まかせて」と短く答えてくれた。

「髪型の希望なんて聞かれないかと思ってた」

どうにも気になってそう聞いてみると、

「昔は心配しすぎて、ついいろいろ押し付けちゃったけど、あんたももう大人だからね」と返ってきた。

母に反発することが当たり前になって『どうして厳しい事を言うのか』なんて考えなくなっていたのかもしれない。
思い返せば、今日「会ってみよう」と考えたのも、親になる前に苦手だった母と仲直りがしたいと思っていたからだろう。
これからお母さんになるんだ、自分から歩み寄らないと…。そう思っていると、

「切らせてくれてありがとうね。がんばるんだよ」

と先に言われてしまった。

私もまだまだ子どもだな、そう口にしようとしたそのとき、お腹の中から赤ちゃんに蹴られた感触がした。

「うん、がんばるね」

私はお腹をさすりながら2人にそう答えた。

     

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