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こころ温まるお話「涙のチョコレートケーキ」

       

「今年こそ一個くらいもらって来なさいよ!」

「ムリムリ~、こんなイガグリ坊主君じゃ!」

うちに男は俺一人。しかも末っ子だ。毎年2月になると母と姉たちからここぞとばかりにからかわれる。たしかに幼稚園の年長の時以来、本命チョコにはお目にかかっていない。毎年バレンタインには母たちが用意してくれる特大のチョコケーキを(なぜか4人で)食べ、「チキショー、来年こそは!」と密かに誓いを立てるのだ。

そして…今年はなんと後輩から本命チョコをもらってしまった!
これには自分はもちろん、家族もビックリだ。

「奇跡が起こった!」

「うるさいな…俺だってその気になればチョコのひとつやふたつもらえるんだよ!」

ふと、いつも人一倍おしゃべりな母が会話にのってこないことに気づいた。

「母ちゃん、どうしたの?ほら、もらっちゃったぜ。
イエーイ!…え、母ちゃん、なんで泣いてるの!?」

「…だってほら、毎年誰にももらえないけんちゃんが…良かったね…」

母が泣き笑いしながら言う。まさか俺はモテない不憫な子だと母に思われていたのだろうか…。
うちには父ちゃんがいない分、母ちゃんが夜遅くまで働いている。毎日忙しそうだから、あまり細かいことなんて気にしていないだろうと思っていたのに、チョコをひとつもらってきたという、こんな些細なことをここまで喜んでくれるとは…。なぜか俺まで泣きそうになってしまった。

「ねえ!今年はケーキ無いの?でっかいチョコケーキ!」

「今年はチョコもらったんだからいらないでしょ?」

「それとこれとは話が別だろ!毎年これが楽しみなんだからさ」

結局今年も母と姉3人に囲まれてわいわい食べるチョコケーキ。
これはこれですごく幸せな毎年恒例の俺のバレンタインだ。

 

     

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