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こころ温まるお話「父と娘の交換日記」

       

ある日、仕事から帰ると「おかえり」という娘の声が出迎えてくれた。

「珍しいな。言ってくれれば早く帰ったのに」

娘は数か月後に結婚式を控えていて、家を出ていってからもう随分と経つ。

「うん、そうだね」という娘の素っ気ない返事すら既に懐かしい。

少しばかりの時間を一緒に過ごして、娘は帰ることに。
送っていこうか、と声をかけるも夫が迎えに来てくれるから大丈夫だと断られてしまった。

「アカリももう大人なんだから、当たり前でしょ」

妻の言う通りだと思いつつも、娘が幼かった頃の思い出がよぎり、正直寂しい気持ちだ。

そんな感傷に浸っていると、妻がニコニコしながら「はいこれ、アカリが置いていったよ」と、見覚えのあるノートを手渡してくれた。
ずっと昔に私と娘が使っていた交換日記だ。

「うわぁ、懐かしいな!」小学校の頃まではよく返事を催促されたが、年頃にもなると返事は来なくなっていた。
会話が素っ気なくなったのもその頃からだったように思う。
当時を思い出しながらページをめくっていると、後ろの方に何か書き足されていることに気づいた。

『お父さん、この交換日記を覚えていますか?
荷物の整理をしていたら、このノートが出てきました。次は私の番で終わっていたので、今日はお返事を書きたいと思います。』

娘の字だ。幼かった頃の丸い文字ではなく、大人びた字だった。

子どもの頃に素っ気なくしてしまって、その後もついつい素っ気ない態度を取ってしまうこと。
学生時代、無理をいって行きたい学校に行かせてくれたこと。
婚約者を紹介した時に快く祝福してくれたこと。

『本当はちゃんと伝えたいのに、いつもごめんなさい。お父さん、お母さんと過ごした日々は、いつまでも私の宝物です。今まで育ててくれてありがとう。』

くしゃっとした顔を誤魔化すように「いつの間にか綺麗な字が書けるようになったな」と呟いた私に、妻は「はい」とだけ言ってペンを渡してくれた。

結婚式当日。手紙とともに交換日記を渡した。
私が書き加えた最後のページを見ると、娘は涙を浮かべながら微笑む。

「似たもの親子なんだから」

妻が小さく笑いながら差し出してくれたハンカチで、私はそっと目頭を拭った。

     

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