院長ブログです
家庭教師のバイトに向かうかたわら、私は先ほど終えた大学の授業のことで、頭がいっぱいだった。
模擬授業といって、生徒同士で行う『授業の練習』が今日の課題だったのだが、用意していた資料の内容は飛び、頭が真っ白になってしまった。
散々な授業を披露したのち、すごすごと教壇をあとにした姿を思い出しては、ため息が止まらない。
「先生、なにか悩んでるんですか?」
そういって私の顔を覗き込んでいるのは、担当している生徒のマキちゃんだ。
「ううん、なんでもないよ、ごめんね!」
どうやらはっきり顔に出ていたらしい。
生徒に心配をかけるとは、いよいよ教師に向いていないのではないかと、自責の念に駆られる。
大学の授業に身が入らなくなったのも、日々の課題をこなすのに必死になっている内に
「自身が教師に向いているのか、そもそもなぜ教師を目指していたのか」よくわからなくなってしまったからだった。
「苦手だったところもしっかりできてる!ちゃんと予習できてて偉いね」
解答を確認していると、マキちゃんは不意に「学校の先生もカトウ先生ならよかったのに」と、つぶやいた。
「…学校でなにかあったの?」
そう尋ねた私に、マキちゃんは少し恥ずかしそうにポツポツと話してくれた。
学校の授業で答えを間違えたとき、担任の先生にからかわれたこと。
それがすごく恥ずかしかったこと。授業を受けるのが少し怖くなってしまったこと。
一通り聞き終え、私は憤慨していた。
「そんなの絶対その先生がおかしいよ!」
そう口に出した直後に、なんで自分が教師になりたかったのか、私は思い出した。
私も小学生のときに同じようなことがあり、学校に行くのも嫌になったころ、進級で変わった担任の先生が、私の助けになってくれたのだ。
「カトウ先生に教わるようになってから、私もそう思えるようになりました」
そう言いながら見せてくれた笑顔を見て、私は憑き物が落ちたような気持ちになった。
春休みが明け4年生になった私は、もう一度、模擬授業の機会を得た。
去年までの自分とは違い、今の私には伝えたいことがたくさんある。
教壇に立つと、私の背筋は自然と伸びていた。