院長ブログです
「お母さん、健太兄ちゃんにちゃんと勉強するように言った方がいいよ」
健太、とは一番上の高校生の兄のことだ。僕は小学5年生。僕には健太兄ちゃんのほかに、中学の兄貴が2人と、まだ3歳の妹もいる。全部で5人兄弟だ。
中学の兄貴たちが、のんびり屋の健太兄ちゃんを今日もバカにしている。頭のいい2人は健太兄ちゃんを見ているとイライラするらしい。でも僕は健太兄ちゃんが大好きだ。小学生の僕とも遊んでくれて、色々なことを教えてくれる優しい兄。
…だけど、ホントに健太兄ちゃんは勉強が苦手。でも、なぜか両親はそんな健太兄ちゃんに、「勉強しなさい」とか、全然言わない。
ある日、僕はその理由を知った。夕方、母と一緒に歩いていた時、健太兄ちゃんが図書館に入って行くのを偶然見かけた。「あ、健太兄ちゃん!」追いかけようとする僕を母が止めた。
「健太はね、勉強しに行ってるの。邪魔しちゃだめよ」
(…勉強!?)健太兄ちゃんと勉強がすぐに結びつかず、きょとんとした僕に、母は言った。
「うちは5人も子どもがいるでしょ。だから、健太は大学には行かないで高校卒業したら働くって言ってるの。お金のかかる塾や大学には、デキのいい弟たちを行かせてやってくれって。ただ本当は決して勉強が嫌いなわけじゃないのよ。だから学校の勉強を図書館でしてるの。家だと弟たちがうるさいしね」
そんなこと、初めて知った。いつものんびりの健太兄ちゃんが僕たちの将来を考えてくれていた。知らないところで一生懸命勉強していたなんて…。
「健太に、あなたたちには言わないでって言われてるの。だから、ナイショよ」
それから、僕はますます健太兄ちゃんのことが好きになった。何も知らない中学生の兄たちは相変わらずだけど、僕にとって健太兄ちゃんは頼もしくてカッコイイ、自慢の兄ちゃんだ。