院長ブログです
私の趣味は散歩だ。
もうすぐ70歳になるが、ここ数年、晴れの日には歩くのを欠かしたことはない。
健康を志してのウォーキングであるが、何より道行く人々を眺めながら歩くことが私は好きなのだ。
散歩をしているとさまざまな人とすれ違う。
ヘルメットを被って自転車を走らせる子ども。ベビーカーを押して歩く若夫婦。
そんな光景を眺めながら、私はそれを見守る側の世代として、穏やかに過ごしている。
私は几帳面な性格なので、散歩は大体決まった時間に決まったルートを歩く。
その道中、ある家の前を通ると、決まってアコースティックギターの音色を耳にしていた。私には馴染みのない最近の楽曲だ。
その一軒家にはいわゆる今どきの若者が暮らしているのだが、その年頃には私もフォークバンドをしていたから、若いっていいよなぁ、といつも懐かしく感じていた。
ところがある日、ちょっとした変化があった。
いつものように歩いていると、例の家から「なぁ、ばあちゃん」と若者の声が聞こえてきた。
あの音楽青年も意外とおばあちゃん子なんだな、などと微笑ましく思っていたのだが、ちょうどその若者と老女が玄関から通りに出てきた。
「なぁ、俺にもギター教えてくれよ」そんな言葉が耳に入り、その姿を目にした私は驚いた。ギターを手にしていたのは若者ではなく、老女の方ではないか。
散歩を続けながら私はしみじみ感じ入った。
あのギターの音色は彼女の演奏だったのかと苦笑が込み上げる。何のことはない、私は先入観を抱いていたのだ。
同時にふと思った。私も何か新しいことを始めてみてもいいのではないか。
また音楽を始めるのも悪くないし、後はそうだな、孫たちが言っていた「SNS」というやつをこの機会に試してみてもいい。
おや、すっかり「見守る側」の人間だと思っていたのだがな、と私は再び苦笑した。
気持ちのいい秋晴れの日のことだ。その日の散歩はいつも以上に気分がよかったのを覚えている。
