院長ブログです
5年前に1人娘が嫁へ行き、私と妻は2人で暮らしている。
幸い、私も妻もお互い元気なのだが、妻は耳を悪くして2年前から補聴器をつけていた。
日ごろ生活で不自由そうにしている場面を見ると少し心配に思う事もあるが、
60も過ぎればお互いにそうした部分があって当然だと思っているので、気にせず生活していた。
そんな私たち夫婦の楽しみは、毎週日曜日に近くの喫茶店へ行ってモーニングを食べる事だ。
家から歩いて15分程の場所にある、本格的なサイフォンコーヒーを淹れてくれる店で、一緒にのんびりと歩きながら向かうのも楽しい。
店で座る席も決まっていた。
今日もいつものように窓際のテーブル席に座ろうとすると、妻が「今日はカウンターに座りたい」と言い出す。
補聴器を忘れたので、向かい合って座ると私の話す声が聞こえないと言うのだ。
確かにそうだと思い、カウンターへ座ると妻もいそいそと隣に座る。
歩いているときにはつけていたのにおかしいなあと思い、妻の耳を見ると補聴器がない。
けれど、家を出るときに妻の耳に補聴器があるのを私は確認していたし、少し離れて歩いていても、妻は私の言葉にちゃんと反応していたのだ。
やっぱりおかしいと思ったとき、カウンターの中にいるマスターが「今日は仲良く隣同士でお食事ですか」と言った。
それを聞いた妻が、凄く嬉しそうに頷くのを見て、私は黙っている事に決めた。
小さな肘が自分の腕に触れるたびに、なんだか無性に恥ずかしいような嬉しいような、不思議な日曜日の朝。
きっと補聴器は妻のポケットにあるはずだ。