院長ブログです
「なんだ、年末くらいは帰るって言っていたのに。もういい!」
「なんだよ!仕方ないだろ、仕事なんだから!お父さんだって…」
息子の言葉を最後まで聞かずに、電話を切った。
妻が驚いた様子で「どうしたの?」と台所から出てきたが、私は「うるさい!」と言って、乱暴にこたつに潜り込んだ。
こたつでふて寝をしたせいか、身体がだるいし寒気がする。
息子から電話だと妻の声が聞こえたが、体調が悪いからと電話には出なかった。
年末の楽しみを奪われたことを根に持っていないといえば、嘘になる。
大した風邪でもないのに、大掃除も妻に任せきりでゴロゴロしていたら、
「ちょっとこれ、懐かしいわね」とアルバムを持ってきた。
その古いアルバムから1枚の写真がひらりと落ちた。
手に取ると、そこには父親の私にしがみついて大泣きしている息子の姿が。
「この時は大変だったわよね。年末にあなた、出張になっちゃって」
一瞬、記憶が早巻きで戻された。
私は若い頃、息子との時間よりも仕事を最優先して働いていた。
退職してからのんびりした時間を過ごす中で、すっかり都合よく、そんな自分を忘れていた。
ピンポーンと玄関の呼び鈴が鳴った。
「お届け物です」息子からだった。
「あら、何かしら。珍しい」妻が嬉しそうに箱を開けると、
「いつでも会えるように長生きしてくれ!」と殴り書きのメモが。
中身は、老舗蕎麦屋の年越しそばセットだ。
テレビではちょうど「年越しそばは、細く長く生きるための縁起物ですよ」と紹介している。
「あら、泣いているの?」妻が茶化して言う。
「ゴミが入っただけだ」と精一杯、誤魔化す。
「そば食べて、うんと長生きするから覚悟しとけって、電話しといて」と私が言うと、「自分でしなさいよ」と妻は笑った。