院長ブログです
それは僕が郵便局員になって初めてのお正月だった。
まだデジタルもそこまで進化しておらず、年賀はがきのやり取りが活発だった時代のことで、大量の年賀状にうんざりしながら配達をこなしていた。
昔ながらの瓦屋根の家屋が軒を連ねる町内の配達に入ったとき。
数軒先に玄関前をうろうろしているおばあちゃんが見えた。
お正月の朝、ひとりで何をしているのだろうと不思議に思いながらも、大量にある年賀状を淡々と配った。
そのおばあちゃんの家の前に着いたとき、
おばあちゃんは開口一番「待ってたわよ!」と満面の笑みを浮かべた。
思いがけない反応に戸惑いつつ、住所と名前を確認し、1枚の年賀状を手渡す。
おばあちゃんは拝むように年賀状を受け取り、僕に深々と頭を下げた。
「孫からなのよ、ありがとう」
おばあちゃんは少し興奮気味に「約束したのよ。学校で習ったから、一人で頑張って年賀状を出すって」と教えてくれた。
年賀状いっぱいに文字が書かれており、後半になるにつれて文字が小さくなっていくのを見て、思わず自分も温かい気持ちになる。
「最初に大きく書きすぎて入り切らなくなっちゃったのね」
そう言っておばあちゃんは微笑みながらじっと年賀状を眺めていた。
その後の配達には力が入った。
年賀状を心待ちにしている人がいる。
それを目の当たりにしたとき、うんざりしていたはずの大量の年賀状がまるで宝の山のように思えた。
近頃は年賀状を送る人が少なくなってきた。
だからこそ、そこには間違いなく送った人の想いがしっかりと込められている。
そしてそれを受け取ることを心待ちにしている人がいる。
だから僕は、毎年お正月にみんなの大切な想いを届けることが楽しみでたまらないのだ。