ハイドロキシアパタイト(HA)コーティングインプラントの現状について
<HAコーティングインプラント>は、未だにその評価が分かれているようである。
また、長期的信頼性についても、当初は「3、4年位で駄目になる」との噂が立ち、5年経過した後には「寿命は7,8年らしい」などと常に臨床での信頼性に疑問が投げかけられてきた。
しかし、そのような疑問や否定的な意見が交錯するにも拘わらず、HAコーティングインプラントの臨床は米国ではすでに21年を経過し、現在では40種類以上のHAコーティングインプラントが市販されるに至っている。一部の否定的意見とは無関係に、インプラント臨床でのHAコーティングインプラントの使用率、支持率は予想以上に高い。これはどのような事を意味するのだろうか?
そこで、このHAコーティングインプラントについて、1985年に米国で臨床応用が始まってから22年を経過する今Evidenceに基づいて、再検証を行ってみたい。
既に、チタン製インプラントは長期の歴史に裏付けされた臨床的評価を得ていると思われる。
なぜ、HAコーティング・インプラントを使う意味があるのか?
動物による基礎実験では、骨の結合速度、結合面積、結合強度などにおいて、チタンに比べHAが優れている事は既に知られている。しかし、HAコーティング・インプラントが臨床で好んで使用される真の理由は、チタンインプラントよりも"臨床的に"優れた点があるからに他ならない。
その優れた点とは、次の三つに集約されると思われる。
さて、以上の様にHAコーティング・インプラントではチタンインプラントに比べて優れた点が明らかになっている。又長期の信頼性も、10年経過後でもチタンインプラントに比べて劣るとは思われない。ところが、いまだに「割れる」・「剥がれる」・「感染し易い」などの否定的な意見、疑問が強く残っている理由は何故だろう。
それには、次のような理由が考えられる。
過去に存在した剥離・破折が生じるような稚拙なコーティング製品は殆んど市場から消えているが、いまだ、接着強度・結晶率・対溶解性などの観点から十分でない製品も見受けられる。既に現状の製品では略良好な結果が得られているが、今後さらに高品質のコーティングが開発され、より臨床的信頼性の高い製品が増えていくと思われる。
現在のHAコーティングは数十ミクロンの厚みで行われているが、一部には数ミクロンの薄層化したコーティング製品を模索する流れもある。果たして、そのような薄いHAコーティング層が、従来のHAコーティングと同じように生体活性を発揮出来るかどうかは、未だ不明な点も残っているがHAの機械的脆弱性を補う一つの流れであろう。
又、インプラント周囲の骨の形成をさらに促進する為、各種の骨誘導蛋白(BMP)や骨成長因子の応用が考えられているが、HAとの併用によってさらに進化したインプラントの開発が期待出来る。
さらに、将来的には歯根膜を持ったインプラントの開発を目指す向きもあるが、その場合金属のチタンに歯根膜の付着を期待するのは難しいと思われ、歯根のセメント質により近いHAコーティングが歯根膜を持つインプラントに成りうる可能性が高いと思われる。
日本でも臨床応用が始まってから17年を経過するHAコーティングインプラントの現状をまとめてみる。HAコーティングインプラントは、チタンインプラントとは色々な面で異なっている。骨との結合は"Biointegration"と言う真の骨結合であり、「埋入時に初期固定が不要」 「適応症例の選択に骨質を選ばない」など臨床的に優れた点がある。又、インプラントの失敗が補綴後3~7年くらいの中・長期に起こりやすい傾向もチタンインプラントとは異なっている。
このように、HAコーティングインプラントはチタンインプラントが構築してきた従来のインプラント学の基本とは異なって点が多くこの違いを理解する必要があろう。
いずれにせよ、正しい診断・治療(埋入インプラントの適正な数、長さなど)とメインテナス(プラークコントロールと咬合のチェック)が行われるならば、HAコーティングインプラントは長期に渡って安定し高い成功率が得られる事が明らかになってきており、その特徴から臨床上の有効性は大きいと思われる。